消極的に自分自身を放棄・放任するセルフ・ネグレクト

なぜ彼らは人生を放棄してしまうのか

岸 恵美子

4. 最悪の場合、セルフ・ネグレクトは 孤立死」を招く

セルフ・ネグレクトは、ゴミ屋敷や部屋を散らかし放題にしてしまう、病気になっても治そうとしないだけではなく、孤立死という最悪の事態を招くこともあります。

2011年1月8日、大阪市豊中市のマンションの一室で、女性二人がやせ細った変死体で発見されたというニュースを覚えているでしょうか。

2人の女性は元資産家の姉妹で、死亡時は63歳と61歳、所持金は数百円、食料も底をつき、警察に発見されたときは、死後20日以上経過、死因は餓死ということでした。

姉妹は土地を多数所有していた資産家でしたが、資産運用に失敗し、預金残高はゼロとなり、その前年の10月には電気・ガスも止められていたにもかかわらず、生活保護も介護保険も申請していませんでした。

裁判所の執行官が姉妹から今後の生活の相談を受け、自己破産や生活保護の申請をすすめたものの、姉妹は拒否。執行官は、12月に豊中市に連絡しましたが、市職員が姉妹宅を訪問することはなく、案内の手紙をポストに投函するのみで、民生委員にも連絡をしなかったそうです。



豊中市がもう少し配慮していれば、最悪の事態を避けられたかもしれませんが、姉妹のほうもプライドが邪魔をして生活保護を受けなかったのではないかとも推測でき、セルフ・ネグレクトが招いた孤立死といえるでしょう。

一人暮らしの高齢者の孤立死のすべてがセルフ・ネグレクトに起因しているとはいえませんが、1980年代の後半から、マスコミでもさかんに
取り上げられるようになりました。

2010年の東京都監察医務院の報告では、東京23区における高齢者の異状死のうち、死後2日以上経過していたケースは1,644人、4日以上は968人、8日以上は540人でした。

異状死の中には、自殺や事故死、死因不明も含まれているので、すべてがセルフ・ネグレクトを要因とする孤立死とはいえませんが、孤立状態で発見され、病院に運ばれ、入院後死亡した人もいるでしょう。

また2011年、民間の調査機関であるニッセイ基礎研究所が、東京23区での孤立死者数と全国の人口動態統計のデータを使って、全国の六五歳以上の孤立死者数の推計値を出していますが、「自宅で死亡し、死後2日以上経過」を孤立死と定義した場合、年間で2万6,821人にのぼることになると指摘しています。

このように正確なデータは存在しないものの、これらの数字は孤立死について重要な示唆を与えていると思います。


※本コンテンツはCOCORO35号をもとに再構成しています

岸 恵美子 (きし えみこ)
東邦大学大学院看護学研究科教授
1960年、東京生まれ。看護師、保健師、看護学博士。
日本赤十字看護大学大学院博士課程後期終了。東京都板橋区、北区で16年間保健師として勤務した後、自治医科大学講師、日本赤十字看護大学准教授、帝京大学大学院医療技術学研究科看護学専攻教授等を経て現職。高齢者虐待、セルフ・ネグレクト、孤立死を主に研究。「看護職のためのエルダーアビューズ・ケア研究会」主宰。著書に『セルフ・ネグレクトの人への支援』(共著、中央法規出版)、『自治体による「ごみ屋敷」対策―福祉と法務からのアプローチ―』(共著、公益財団法人日本都市センター)、『ルポ ゴミ屋敷に棲む人々』 (幻冬舎新書)などがある。