消極的に自分自身を放棄・放任するセルフ・ネグレクト

なぜ彼らは人生を放棄してしまうのか

岸 恵美子

2. セルフ・ネグレクトは誰にでも起こりうる問題

テレビなどで取り上げられるゴミ屋敷は、消極的に自分自身を放棄・放任し、時間をかけて自分の健康や安全を損なっていくセルフ・ネグレクトの最もわかりやすい例の一つです。

ゴミ屋敷の住人たちは、なぜゴミに執着するのでしょうか。

私の過去の調査では、彼らは他者の介入を拒み、孤立した人たちが多いように思います。

孤独で寄り添う人がいないため、心の拠り所としてモノに執着し、その結果ゴミ屋敷にたどり着いてしまったと感じます。

しかしゴミ屋敷の住人に限らず、周囲に迷惑をかけることもなく普通に暮らしている人の中にも、着なくなった服や思い出がつまった写真や手紙など、モノをなかなか捨てられずに困っている人がいるのではないでしょうか。

若い時はともかく、高齢になると身体を動かすのがままならなくなるので、決まった場所にモノを片付けること自体が億劫になります。

また、ゴミの分別が複雑になったので、分別できなかったゴミが少しずつたまっていき、気が付けば押し入れや床がゴミであふれかえるというケースもあります。

こうした「片付けられない人たち」は高齢者に限ったことではありません。

一人でいることが寂しく片付ける気力が湧かない、仕事が忙しくて片付ける暇がなかったなど、若い人の中にもゴミ屋敷のような部屋で暮らしている人はいます。

しかも、セルフ・ネグレクトの問題は、ゴミ屋敷ばかりではありません。

生活のうえにおいて当然行うべきことを行わない、あるいは行う能力がないことから、自分自身の心身の安全や健康を脅かしてしまうのがセルフ・ネグレクトですから、たとえば体調が悪いのにお金があっても病院に行かない、薬をのまない。その結果、重い病気にかかってしまうというのもセルフ・ネグレクトなのです。

また、長年勤めた会社からリストラをされて経済的に困窮したり、さらにリストラされたショックで生きる意欲を失い、セルフ・ネグレクトに陥るというケースもあります。

つまり、セルフ・ネグレクトはゴミ屋敷ばかりの問題でも、高齢者に限った問題でもなく、何かのきっかけによって誰にでも起こりかねない、身近な問題なのです。


※本コンテンツはCOCORO35号をもとに再構成しています

岸 恵美子 (きし えみこ)
東邦大学大学院看護学研究科教授
1960年、東京生まれ。看護師、保健師、看護学博士。
日本赤十字看護大学大学院博士課程後期終了。東京都板橋区、北区で16年間保健師として勤務した後、自治医科大学講師、日本赤十字看護大学准教授、帝京大学大学院医療技術学研究科看護学専攻教授等を経て現職。高齢者虐待、セルフ・ネグレクト、孤立死を主に研究。「看護職のためのエルダーアビューズ・ケア研究会」主宰。著書に『セルフ・ネグレクトの人への支援』(共著、中央法規出版)、『自治体による「ごみ屋敷」対策―福祉と法務からのアプローチ―』(共著、公益財団法人日本都市センター)、『ルポ ゴミ屋敷に棲む人々』 (幻冬舎新書)などがある。